覚え書

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（何度読んでもぐっとくるので残しておこうと思います）

GOETHE WOMAN 巻頭言　　　文/光野桃＝ゲーテ･ウーマン　クリエイティブ・ディレクター

　美しい庭のように生きる

　あらゆる自由と選択肢があるようにみえて
　この日本という国で，女がきれいに歳を重ねていくことは
　決してたやすいことではない。
　がんばって生きていこうとすればするほどバランスは崩れ
　発熱した子供のように，正体のない渇きに身をよじる。
　わたしたちはもうずっと長い間
　多くのものを感じないようにし，あえて忘れたままにしてきた。
　けれど，それが大人になるということではない。
　その真の意味は，生まれたきた理由や使命を思い出すこと。
　自分自身と丁寧に寄り添い，掘り下げ，感じ，許し
　一般的な常識ではなく直感にしたがって肯定していくことだ。
　自分のなかの真実の物語が立ち現れてくるのを
　忍耐強く待つことだ。
　そのために必要なのはまず，観察である。
　あなたの庭には，どんな花が咲き，どんな風が吹いて
　幾羽の鳥が舞い降りるのか。
　雨がどの小道から，その土をうるおしていくのか。
　庭は，いつでもそこにある。
　ただ，気づきさえすればいいのだ。





　それは生き物のように不思議なもので
　雑草を抜き，土を耕し絹のようになめらかにし
　たっぷりの水を与えたその瞬間
　光が入り風が起こる。
　自然のものにもかかわらず
　手をかけた庭にしか，心地よい風は吹かないという。
　そんな庭を心のうちに抱くひとは
　満たされた美しさにあふれている。
　その美は生命力の発露として
　他者に注がれ，共鳴し
　活気あるエネルギーとなって響きあう。
　愛と充足から発信された美だけが
　未来とつながることができる。
　自己表現にエゴイズムが内包された時代は
　20世紀で終わったのだ。
　顕示的であることは，もう必要ない。
　静かに穏やかに
　自分の庭に立つことだ。
　そのとき，新しい風が
　吹き渡るのがわかるだろう。